目次

相続人に関する問題について

Q. 相続人の廃除について
私には、妻、長男、長女がいます。私に暴力を振るったり、私のお金を使い込んだりする長男に、私の遺産を相続させない方法はありますか。

Answer.
家庭裁判所に「推定相続人廃除の申立て」(審判)を行い、以下の要件をみたせば長男にあなたの遺産を相続させないことができます。但し、その判断は厳格な要件で慎重になされます。「推定相続人廃除の申立て」(審判)は、あなたの住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。相続人の廃除をすれば、兄弟姉妹以外の相続人が有している遺留分を含めて一切相続財産を相続させないことができます。

要件
1. 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のことを「推定相続人」といいます)による被相続人に対する虐待若しくは重大な侮辱又は当該推定相続人にその他の著しい非行があったこと
2. 1.が関係を破壊等させるものであること

あなたが、長男に廃除の申立をしたことが知られることはリスクがある等、生前、推定相続人排除の申立て(審判)という家庭裁判所での手続きを求めることが難しい場合は、遺言書を作成し、その中で、長男を推定相続人から廃除する旨の意思表示を行うこともできます。このようにすれば、長男があなたの遺言書の存在を知るまで(通常は、あなたの死亡後)、長男に廃除をしたことを知られることはありません。
遺言による廃除は、あなたの死後、遺言執行者が長男の廃除を家庭裁判所(相続開始地の家庭裁判所)に申し立てることになります。遺言による廃除のデメリットとしては、長男から廃除について異議を申し立てられた場合、あなたは既に死亡しており自分の気持ちを裁判所に直接伝えることができず、またあなたは詳細な反論ができないこと、廃除が認められなくなる可能性もあることです。

Q. 内縁の妻に相続させることはできますか。

Answer.
内縁の妻は、法律上の妻(配偶者)ではないため、法律上、相続人ではありません。
内縁の妻にあなたの財産を渡す方法として、贈与(生前贈与、死因贈与)又は遺贈が考えられます。
生前贈与とは、贈与者が生前に、自分の財産を無償で相手方に与える意思表示をし、相手方がこれを受諾する契約をいいます。
死因贈与とは、贈与者が生前に、贈与者の死亡によって贈与の効力が生じる旨の契約(2人以上の意思表示の合致によって成立する法律行為を契約といいます)をいいます。
遺贈とは、遺言で贈与することをいい、法的には単独行為です(1つの意思表示によって成立する法律行為を単独行為といいます)。
生前贈与と死因贈与は、いずれも贈与契約の一種ですが、生前贈与では直ちに贈与の効力が生じるのに対し、死因贈与では贈与者の死亡時に効力が生じます。
遺贈も贈与者の死亡時に効力が生じます。

遺言書にかかわる問題について

私には、妻、長男、二男がいます。家業を継いでくれる長男に、自宅兼事務所になっているビルを相続させたいと考えています。ビル以外に目ぼしい財産はありません。私の死後に家族が揉めなくて済むような遺言書は作成できますか。

Answer.
生前から、あなたの気持ちをご家族に伝え、理解を得るとともに、遺言書を作成する際には、妻や二男の遺留分(遺留分については、Q&A「遺留分)とは何ですか。」を参照)に配慮した内容にしておくことが望ましいでしょう。例えば、遺言書において、長男が二男に対し、遺留分相当額の代償金を支払う等長男に一定の負担付でビルを相続させること、あなたの気持ちを述べた事項(付言事項といいます)を書いておくとよいでしょう。

母が亡くなり、私と兄とが相続人になりました。兄は、母の自筆の遺言書があると言っていますが、母は、遺言書の作成年月日当時には、重度の認知症で文字が書けなかったはずです。遺言の無効を争うには、どのような手続きを取ればいいですか。

Answer.
兄弟間で遺言の無効についての争いが激しくどちらも譲らない場合は、遺言無効確認の訴えを提起して遺言の有効性を確認する必要があります。
兄弟間の争いがさほど激しくない場合には、家庭裁判所に「遺言無効確認の申立て」(調停)を行うことも可能です。
遺言の無効を主張する相続人(受遺者、遺言執行者、その他遺言について法律上の利害関係人を含みます)は、遺言の有効を主張する他の相続人を相手方として、家庭裁判所にこの申立てをします。調停が成立せず、家庭裁判所が調停に代わる審判をしない場合には、「遺言無効確認の訴え」(訴訟)を提起します。

遺産分割協議に関する問題について

Q. 遺産分割協議書とは何ですか

Answer.
遺産分割協議書とは、相続開始により法定相続人の共有となった遺産を相続人の個々の財産分けるための協議をし、共同相続人全員の合意がなされたもので、簡単にいえば被相続人(死亡された方)の財産を相続人間でどのようにわけるかについて相続人間で合意した書面のことです。詳細は以下のとおりです。

遺産分割協議書には決まった書式(書き方)はありませんが、下記の点に注意する必要があります。

ポイント1:法定相続人全員で協議

戸籍調査により相続人全員を確定する必要があります。
全員の協議については、全員が承諾した事実があればよく、 全員が一堂に会して協議する事までは要求されません

ポイント2:法定相続人全員が、遺産分割協議書に署名し(記名でも可能)、実印(認印でも可能)を押印

後々の紛争を防止するという意味で、印鑑は認印より実印を使用し、名前の部分は記名(氏名部分を印字するの)ではなく署名がよいでしょう。
また、不動産手続や銀行の手続等のためには印鑑は実印を押印が要求されるものもありますので、その意味で実印がよいでしょう。

ポイント3:財産の表示は正確に

不動産の場合、登記簿どおりに記載、銀行預金は、銀行名・支店名・預金の種類・口座名義・口座番号を記載します。

ポイント4:袋とじか全頁に契印を

遺産分割協議書が用紙が数枚にわたる場合、通常、捺印した相続人全員の印鑑で、袋とじの箇所に契印をするか又は全頁に契印を行います。

ポイント5:印鑑証明書の添付

遺産分割協議書には、実印を押印するため各相続人の印鑑証明書の添付が望ましいでしょう。

相続人が未成年である場合や認知症等で分割協議に参加できない者がいる場合には、代理人や後見人等を選任した上で遺産分割協議をすることになります。また、相続人に行方不明者がいる場合も一定の手続が必要になります(相続人の中に認知症の方がいる場合についてはQ&A「共同相続人の中に認知症の人がいます。遺産分割協議を行うことはできますか。」を参照)。

Q. 共同相続人の中に認知症の人がいます。遺産分割協議を行うことはできますか

Answer.
家庭裁判所に「後見等開始の申立て」(審判)を行い、認知症の人について後見人などを選任し、後見人等が遺産分割協議に参加すれば、遺産分割協議を行うことができます。本人、配偶者、4親等以内の親族、未成年後見人・保佐人・補助人及び各監督人、検察官、市町村長は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所にこの申立てをすることができます。

Q. 遺産の中に不動産がある場合、どのように分ければいいのですか。

Answer.
この場合、遺産の分け方には以下の大きく3つの方法があります。

(1) 現物分割

現物分割とは、個々の財産につきいずれの相続人が取得するのかを決める方法です。
例えば親の住んでいた大阪の土地及び建物は、長男が相続する。
親の所有していた東京の土地及び建物は次男が相続する。
預貯金は、長女が相続するというように分ける方法です。
現物分割で相続していく場合、各相続人の相続分に応じて相続財産の価額を考慮してわけるのは難しいため、次の代償分割も利用することになります。

(2) 代償分割

特定の相続人が、特定の財産(現物)を相続する代わりに、他の相続人に金銭などを与える方法が代償分割です。例えば、「長男が親の経営している事業を承継するためにこの会社の資産(遺産)の株式や店舗(土地・建物)を相続し、その代わりに、長男が次男に代償金(3,000万円)を支払う」というものです。

(3) 換価分割

換価分割とは、相続財産を第三者に売却して現金に換えた上で、相続人間でそれを分ける方法です。現物を相続人間で細かく分割するのでは狭すぎる土地、相続人間の共有にするのは難しい等の場合、換価分割が行われることがあります。ただし、この場合、相続財産を処分することになりますので、処分費用や譲渡所得税などを考慮する必要があります。

相続人間で争いやすい事項(寄与分、特別受益、遺留分)について

Q. 「寄与分」とは何ですか

Answer.
寄与分とは、共同相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者に、貢献の度合いに応じてその者に相当額の財産を取得させ、共同相続人間の公平を図る制度です。寄与分は相続人のみに認められていましたが、相続人以外の親族が亡くなられた方の面倒を見ても寄与分が認められない不都合等を考慮し、平成30年民法改正により被相続人の親族にも寄与分を認めることになりました。具体的には寄与分を主張する親族は相続開始後に寄与に応じた金額を相続人に対し請求します。
寄与分の具体例
・相続人が被相続人の事業を無償で手伝っていた場合
・相続人が被相続人の事業に資金提供した場合
・相続人が被相続人の療養看護を行っていた場合
・相続人が被相続人へ仕送りをしていた場合等
寄与分は、相続人全員の協議で定めることができますが、協議が整わない場合には家庭裁判所の調停又は審判により定められます。ただし、寄与分の主張は、夫婦間の協力扶助義務や親族間の扶養義務の範囲内にとどまるものであれば、裁判実務では寄与分の主張が認められない場合もあります。

Q. 「特別受益」とは何ですか

Answer.
共同相続人の中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がいる場合、その受益した額のことをいいます。
特別受益か否かをめぐりよく争われる具体例としては、婚姻又は養子縁組の際の持参金・支度金、債務の肩代わり、多額の生活費の援助、生命保険金、借地権の承継・設定、不動産の無償使用等が挙げられます。特別受益の評価は、原則として、相続開始時を基準とします。贈与後に、受贈者の行為によって受贈財産が滅失又は価額の増減があった場合は、贈与を受けた当時の原状のままあるものとみなして算定します。

Q. 「遺留分」「遺留分侵害額請求権」とは何ですか

Answer.
被相続人は自己の財産を自由に処分できますので、生前、誰かに自分の財産を贈与したり、又は遺言書を作成し相続人の中のいずれかに相続させたり、相続人以外の第三者に財産を遺贈することが可能です。このような財産の処分から相続人を一定の範囲で保護するため、生前贈与、遺贈、相続分の指定により遺留分を侵害された法定相続人(兄弟姉妹を除く)に「遺留分侵害額請求権」を認めています。詳細は以下のとおりです。

(1) 遺留分権利者

民法上、遺留分権利者は、相続人となる配偶者、子(代襲相続人を含む)及び父母等の直系尊属に認められています。兄弟姉妹、甥や姪には遺留分は認められていません。

(2) 遺留分

遺留分は法定相続分の2分の1で、具体的な割合は以下のとおりです。
複数名いる場合はその割合を人数で割ったものが一人当たりの割合です。

1. 子と配偶者が相続人の場合 

相続財産のうち、子が4分の1、配偶者が4分の1
※配偶者が死亡している場合は子が2分の1 

2. 父母と配偶者が相続人の場合

相続財産のうち、配偶者が6分の2、父母が6分の1
※配偶者が死亡している場合は父母が3分の1

3. 兄弟姉妹と配偶者が相続人の場合

相続財産のうち、配偶者が2分の1、兄弟姉妹は遺留分なし

4. 配偶者のみ

相続財産のうち、配偶者が2分の1

(3) 遺留分侵害額請求権の行使

遺留分侵害額請求権の対象となる贈与

・相続人以外の者に対する贈与

 相続開始前1年間の生前贈与(但し、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にした贈与も含まれます)。

・相続人に対する贈与

 相続開始前10年間になされた相続人に対する贈与(但し、婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に該当する場合)

遺留分侵害額請求権の行使方法

・相続人間の話し合において行使

・内容証明郵便による行使

・家庭裁判所に対する家事調停(遺留分侵害額の請求調停)の申立

・地方裁判所(又は簡易裁判所)に対する訴訟

(4) 遺留分侵害額請求権の消滅

以下のいずれかに該当すると遺留分侵害額請求権は消滅します。
1. 相続の開始及び減殺すべき贈与や遺贈があったことを知ったときから1年を経過したとき
2. 贈与や遺贈があったことを知らなくても、相続開始から10年を経過したとき

Q. 私は、自分の仕事を辞めて、病気の母と同居し、介護に努めてきました。そのため、母は、私に全財産を相続させるという遺言書を作り、姉の承諾を得ました。ただ、母に預貯金はほとんどなく、高額なものといえば自宅くらいです。母が亡くなり、私だけになれば、姉から遺留分を請求され、自宅を手放すことになってしまうのではないかと心配しています。母が生きているうちに、姉に遺留分を放棄してもらうことはできますか。

Answer.
遺留分権利者である姉が、母の相続について、「遺留分の放棄許可の申立て」(審判)を申立て、家庭裁判所から、遺留分放棄の許可を得ることができれば、お姉さんに遺留分を放棄してもらうことができます。家庭裁判所の管轄は、放棄しようとする相続の被相続人の住所地です。